キロワットだけ確保しても今回の事態は防げない

昨年、クリスマスイブの12月24日時点で「電力不足に備える」というエントリーをした時は、世の中では全く話題になっていませんでした。

ところが、ここにきて日経新聞をはじめ全国紙、NHKが取り上げる等、急速に認知が広がっています。

残念ながら事態は悪い方に突き進んでおり、電力供給関係者の懸命の努力をもってしても、事態の解消時期は見通せません。

電気事業連合会

これまでの猛暑・寒波によるキロワット不足と異なり、今回は燃料不足が大きな原因ですから、寒波が過ぎ去ってもただちに状況が改善するとは限りません。

既に、多くのインフルエンサーによって、事象の解説や節電のポイントなどの説明がされ始めてますので、私から次の2つの視点を書きたいと思います。

  1. 構造的要因と、今の電力システムに足りないもの(やや専門的)
  2. 電力危機関連銘柄への注意(個人投資家向け)

長くなるので、2は次回エントリーにします。個人投資家に人気のKDDI(9433)、オリックス(8591)にも触れる予定ですので、是非フォローをお願いします。

内容については読みやすさを優先してあっさり書きますので、正確性に欠ける部分があるかも知れません。本エントリーを参照して発生するいかなる損害にも責任は負えませんので、事実確認は各自お願いします。

電気事業に詳しくない人にとっては、どうしても容易に理解できないかも知れません。その点はご了承ください。

また、私は特に何かの組織や団体を代表する立場でもなんでもないので、よろしくお願いします。

さらに、時間が無いのでグラフや絵も載せません・・・もし閲覧者が増えてきたら、リライトするかも知れませんが。

構造的要因について

今回、日本卸電力取引所(JEPX)スポット市場から電気を調達していた新電力が、電気のスポット市場価格がこれまでに無いほど高騰してしまったことで、経営に大きなダメージを受けているはずです。

では、新電力は他に電力を調達する術が無かったのでしょうか?実はありました。

  • 自前で発電所を持つ
  • 発電会社から相対で電気を調達する
  • ベースロード市場で買う
  • 先渡市場で買う
  • 先物市場で買う(価格ヘッジ)

等です。では何故そうしてこなかった(会社が多いと思われる)のでしょう?

実は、JEPX(スポット)は旧一般電気事業者(旧一電)が限界費用で余力電源を売り入札する他、再エネもほぼ0円で投入されるため、JEPXスポット価格は非常に安価に推移しておりました。発電所を作り、維持するためには莫大な費用が掛かりますが、その固定費が反映されず、限界費用(実質燃料費)だけで取引されるJEPXは、猛暑や寒波等のひっ迫時を除き、割安な調達方法だったのです。

余りにも安い状態が続いたため、待望のベースロード電源市場(石炭や水力等の電源にアクセスできる)すらほとんど約定せず、新電力はJEPXスポット依存を深めていったと思われます。

旧一電を中心とした発電ライセンスの持ち主は、売れるかどうか分からない電気のために燃料を調達できません。火力発電用燃料の中心となるLNGは貯蔵が容易ではないのです(全く調達しないのではなく、売れないリスクも考慮して控えめに調達すると思われる)。

新電力が様々な小売メニューを開発し、旧一電から顧客シェアを奪っていく一方、電源調達はスポット市場依存になると、どうなるか?

燃料が足らなくなります。

そして、燃料が足りないと気付いてから追加調達をしても、一カ月以上かかります。

燃料が足りないので、JEPXへの売り原資投入も抑制されます。結果、JEPXスポット価格が上がります。

「本当に燃料が足りないかどうか分からない」という声もありそうですが。大丈夫です。ズルをしていないかどうかは取引等監視委員会がきっちり見ているので、公開されているかどうかは問題ではありません。むしろ公開すると燃料不足である状況に足下を見られて、高い燃料を買うことに繋がります。

というわけで、今回の価格高騰メカニズムは、単に寒波がやってきた、だけではなく、上記を含む以下の要因が複合的に重なっています。

  • コロナ禍で需要が落ちると各社予測しており、燃料も相当の分しか調達していなかった。
  • 中国が豪州との政治問題から石炭の輸入を停止する等、石炭が不足。代わりにLNGを買ったことで、LNGのスポット価格が高騰していた。
  • 新電力がシェアを獲得する一方、低廉なJEPXへの依存を高めていた。
  • 発電設備の固定費が重荷になっている旧一電が設備の縮小を図っており、いざという時の予備力としては頼りになる石油火力はほとんど休廃止していた。

ここで、この問題への対処を考えたいと思います。今、日本では「容量市場」というものがスタートしていて、これはkW価値を経済メカニズムを活用して効率的に確保する、という趣旨です。では仮にこれが理想的に進み、日本で必要なkWが充足していれば、今回の問題は起こらなかったでしょうか?

起こると思うんですよね。

kWは一時的な出力の最大値を確保するものですが、燃料が不足すればkWも出せなくなります。

日本中の全部の発電所がLNG火力だったとして、LNGが足りなければ運転できません。

ではどうすれば良いのか。これはこれから議論されるべきテーマだと思いますので、またいずれ。

長々と読んでいただき、ありがとうございました。

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