JEPXスポット市場は「スーパーの見切り品」?

年末以降の電力需給逼迫がNHK等でもニュースになり、新電力の株価にも影響し始めたことで、色んな人が卸電力取引所「JEPX」に関心を持ち始めています。

また、新電力=市場連動=電気代が高くなるというような誤解も広がっています。

今回は、イメージができるような喩え話をしたいと思います。なお、喩えですので、もちろん正確に事象を細部まで説明できるわけではないので、その点はご了承ください。また、特定の組織・団体を代表しているものでもありません。

例えるなら…

  1. スーパーの閉店間際の見切り品の刺身が安いことに気付いた。
  2. 見切り品の刺身がとても安いので、みんな閉店間際の見切り品を狙いだした。
  3. スーパー側はまともな価格で売れないので、見切り品が出ないよう、仕入れを減らした。
  4. テレビで「刺身が健康に良い」という番組が放送され、急にみんな刺身を買いに来た。
  5. 見切り品は当然無くなり、そもそも夕方には定価でも売り切れていた。
  6. どうしても刺身が食べたかったので、高級鮨店に行った。高級鮨店は時価で販売しており、すごく高かった。

解説

①スーパーの閉店間際の見切り品の刺身が安いことに気付いた。

「市場」と言われている電気は、日本卸電力取引所で取引される、30分1コマを対象にしたスポット取引価格のことです。受渡の前日10時時点で決まります。

電気を発電するためには、発電所を作ったり燃料を買ったりと、大がかりかつ長期間の準備が必要ですが、受渡前日で電気の売り先が決まっていない部分については、「発電コスト(燃料費)を上回っていれば損はしない」ということで、固定費を一切考慮せず、変動費を回収できる水準で売り入札されます。

消費者が家庭で使う電気には「基本料金」がかかりますし、「従量料金」にも燃料費以外の費用が入ってるのではと思いますが、JEPXでは、これがすごく安くなる可能性があるのですね。「限界費用玉出し」と言います。

これは、発電設備を持つ会社の自主的な取り組みとして行われておりますが、ここでおかしな値段設定がされていないかは、電力・ガス取引等監視委員会がしっかりチェックしています。なので、「大手電力の市場操作」とか「LNG調達情報が開示されていない」等の批判は、このことを踏まえていません。公開されていなくても、見るべき人がちゃんと見ているのです。

更に、太陽光発電などの再生可能エネルギーの電気は、ほぼ0円で市場に投入されるので、電気に余力がある時は、スポット市場は非常に安くなります。

②見切り品の刺身がとても安いので、みんな閉店間際の見切り品を狙いだした。

※以下に言う新電力はステレオタイプかも知れません。新電力も様々な行動をしております。

これに目を付けた新電力は、スポット市場で調達すればコストが最小化できると考えました。刺身の喩えでは「鮮度が違う」という品質の差がありますが、電気(系統電力)は品質が一定で差異がありませんので、コストが安ければ安いほど良いことになります。

新電力は、「発電所を作る」というのは資本もお金も時間がかなりかかるので、発電会社から電力を調達していましたが、交渉と契約によって決まるり、当然、固定費も入っています。ところが、JEPXの方が安いということであれば、発電会社からではなくJEPXから調達すれば良いということになります。JEPXは受渡前日約定なので、それまでいくらになるか分からないのですが、まぁ安いだろうと思ったんでしょうね。

③スーパー側はまともな価格で売れないので、見切り品が出ないよう、仕入れを減らした。

発電会社にしてみれば、JEPXは変動費で売ることになれば、固定費を回収できないことになります。固定費を回収できないので、旧型の発電所を休廃止していきます(石油火力がほとんど無くなったことも、今回の需給ひっ迫の要因だと思います)。

また、JEPXは「売れるかどうか分からない」ので、そのために燃料を確保するインセンティブはありません。特にLNGは、使わないから貯めておく、ということに向きません。もし余らせてしまうと、最悪、お金(燃料代)だけ払うということにもなりかねません。

しかも今回はコロナ禍で経済活動が停滞していることや、10月時点で気象庁予報でも寒波を想定していないことから、火力発電所フル稼働に備えた調達というのは困難です。

燃料は海外から調達するので、普通は1~2カ月ぐらいはリードタイムがかかります。もちろん、相対契約で販売が決まっている分は確保するでしょうが、JEPXは別に無理して売る必要はありません。燃料が売れ残った時の補償が無いからです。

④テレビで「刺身が健康に良い」という番組が放送され、急にみんな刺身を買いに来た。

以上は、「JEPXは売り入札が変動費だけだから安い」ということで書いていますが、約定価格は売り札だけでは決まりません。買いたい人が増えれば、価格は上がります。

12月中旬以降、寒波の兆しが見えてきて、急にJEPX価格が俄かに高騰を始めました。普段は安くなる、需要の低い土日や年末にも高価格となったことで、「燃料不足になっているのでは?」というシグナルがあり、当ブログでも記事にしています。

⑤見切り品は当然無くなり、そもそも夕方には定価でも売り切れていた。

JEPXスポット市場は余力を売買するところですから、品薄になれば見切り品は出ませんし、定価でも売れますし、それで売り切れます。

⑥どうしても刺身が食べたかったので、高級鮨店に行った。高級鮨店は時価で販売しており、すごく高かった。

新電力は新電力で、電気の売り先があるわけです。「電気が無いから、高いから、調達しなくていい」ということにはなりませんから、高くても買わなくてはいけません。

終わりに

ツッコミどころはたくさんあると思うのですが、(スーパーは小売りで、新電力の調達に例えるのは違う、とか) ざっくりとしたイメージにはなるのではないでしょうか!?

「見切り品が売り切れたからと言って激怒するお客さん」みたいな主張には、気を付けましょう。

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